レコード・コレクターズ 2022年11月号 特集『ザ・ビートルズ – リヴォルヴァー』

レコード・コレクターズ 2022年11月号 特集『ザ・ビートルズ - リヴォルヴァー』の扉絵を描きました。

 

レコード・コレクターズ 2022年11月号 – オリジナル

 

レコード・コレクターズ 2022年11月号 – 掲載誌
レコード・コレクターズ 2022年11月号 – 表紙

レコード・コレクターズ 2022年11月号 特集『ザ・ビートルズ – リヴォルヴァー』の扉絵を描きました。

絵のテーマを何にしようかとアルバムを何回も聴き、色々な角度からリサーチした結果、アルバムタイトル名そのまま「REVOLVER」しかないという結論にいたりました。

タイトル「REVOLVER」を辞書で調べてみると、動詞形「revolve」の和訳が「回転する」とありました。ですから「revolve」の語尾に「er」付けた「Revolver」は「回転するヤツ」という感じでしょうか。
僕はてっきり「REVOLVER」とは、拳銃を製造しているメーカーの社名だと思い込んでいましたが、拳銃の場合の「REVOLVER」の正しい和訳は「回転式連発拳銃」で、拳銃の種類の事でした。

当時ビートルズがアルバム名を何にしようかと話し合っていた時、誰かが「レコードは何をする?」とみんなに問いかけました。
すると誰かが「回転する」と応えたそうです。それは良いねと、みんなが同意し、このタイトルに決まったそうです。この時、他に候補に挙がっていたのは、「Beatles on Safari」、「Four Sides of the Circle」、「Fat Man and Bobby and Abracadabra – アブラカタブラ」というものでした。最後の「Fat Man and Bobby and Abracadabra – アブラカタブラ」は発売寸前まで最有力候補でしたが、他の人が既に使用していたという事で却下されたそうです。その他には、リンゴ・スターが、ローリング・ストーンズのアルバム「Aftermath」(余波、後遺症、影響等という意味)の単語の真ん中にスペースを入れて「After Math – 数学の後」とし、自分たちのアルバムは「After Geography」(地学の後)にするのはどうか?という話もあったらしいです。リボルバーに決まって良かったですね。

次にREVOLVERは、楽曲と同じくらいアルバムカバーのアートワークが素晴らしいです。手がけたのは、デザイナー、イラストレーターそしてミュージシャン(マンフレッド・マンのベーシスト)でもあったクラウス・フォアマン(Klaus Voormann)さんです。彼の元彼女が、写真家のアストリッド・キルヒャーさん(後に元ビートルズのスチュアート・サトクリフの彼女になってしまう)だったのですが、フォアマンさんは、彼女を通じてビートルズと知り合ったそうです。余談ですが、サトクリフがビートルズを抜ける際に、彼のベースを買い取ったのがフォアマンさんだったそうです。彼女を奪われてるのに、恋敵のベースまで買ってあげるなんてなんていい人なんだ。

さて、イラストレーションの制作のお話はここからです。

今回の絵のテーマは「回転する」に決めました。「フォアマンさんの素晴らしい線で描かれたビートルズの似顔絵」、「回転するレコード」、「回転するモノと聴いて真っ先に頭に浮かんだメリーゴーランド」、この三つの要素で絵を構成する事にしました。メリーゴーランドにビートルズのメンバーを乗せる所を想像しただけで、この絵は良いモノになるに違いないとわくわくしました。
メリーゴーランドを描くため、資料となる画像を検索をしていると、なぜか反時計回りのメリーゴーランドばかり出てきます。何か理由がありそうなので調べてみると、メリーゴーランドは、設計する際に人間の健康に悪影響を及ばさぬよう、遠心力の弱い中心側に人間の心臓が来る反時計回りに動く設計にしたそうです。(内側に心臓がある状態で回転させられると安心し、逆に外側に心臓がある状態で回転させられると恐れを感じる生き物という説もあります。)なるほど、それで反時計回りが多いのですね。
しかし、メリーゴーランドが反時計回りだと僕にとっては、とても都合が悪いのです。なぜなら、メリーゴーランドと、レコードプレイヤーを一緒にした空想上の乗り物を描こうと決めていたからです。
レコードプレイヤーは時計回りに動くなので、反時計回りとなるとかなり違和感を感じます。これは困ったと更に調べてみると、抜け道がありました。アメリカでは反時計回りですが、イギリスを含む西欧や日本では、時計回りのものがあるそうなのです。ビートルズはイギリス出身ですし、何だかぴったりと最後のピースがはまる感じがしました。

しかし大変なのは、ここからでした。
フォアマンさんのイラストレーションを再現しなくてはいけません。メンバー4人全員の似顔絵です。完全再現ではないのですが、「アルバムのジャケットの似顔絵だな」と分かる位には特徴を出して描かないと、このイラストレーションでは意味がありません。

オリジナルのイラストレーションでは、メンバーの髪の毛が一本づつ丁寧に細い線を使って描かれています。細部を観察していくうちに、この繊細さこそがこの絵の最重要ポイントであると確信しました。長い髪の毛を描く時、隣に位置する髪の毛とは一切交差せず、一定間隔を保ちながら、いきいきとした線で一気に描かなくてはいけません。実際に描いてみると、とても難しく、何度も失敗しました。勢いよく一気に描くと線は良いのですが、隣の髪の毛に交差してしまいます。運良く交差しなくてもその線が一定間隔でなかったりするのです。かといって、ゆっくり描くと途端に線に勢いが無くなり、張りの無い死んだ線になってしまいます。素晴らしい絵だとは分かっていましたが、同じ様に描いてみて改めて彼の技術に脱帽しました。ゆっくり時間を掛け、幾多の失敗を重ね、なんとかメンバー4人の顔を完成する事が出来ました。

 

次に取り組んだのが構図です。オリジナルのイラストレーションと同じ顔の向きのまま、それぞれを馬に乗せレイアウトしなくてはいけません。回転木馬ですから、四人がいる位置は動くはずなので、アルバムの配置に合わせる必要はありませんでした。しかし、隣り合う四人の関係性(順番)はオリジナルへのリスペクトも込めて変更すべきではないと思いました。アルバムでは、右上から時計回りに「ジョン、ジョージ、リンゴ、ポール」の順番にメンバーが配置されています。今回の絵では、アルバムの順番を一つづつ反時計回りにずらしました。左上がジョンになり、顔はアルバムのままで右向き、右上のジョージは正面を向き、右下のリンゴは左上向き、最後に左下のポールも左向きと、全員ウマく配置する事が出来ました。ただ、リンゴの顔の向きが気になりました。もともと左上を向いているのですが、そのままでは不自然で、上を向くには何か理由が必要でした。どう解決すべきか、オリジナルアルバムを眺めていると、メインカラーである黒とアイボリーの配色がロートレック(Henri de Toulouse-Lautrec)の黒猫(ル・シャ・ノワール)のポスターを連想させました。そしてピンときたのです。
「そうだ、リンゴの目線の先に黒猫を配置すればすべてウマくいくじゃないか!」リンゴの目線の先にある屋根の上に猫を描き入れる事で、リンゴの顔の向きの不自然さを解消するだけで無く、アクセントやコントラストも効いて、絵に締まりが出たように感じました。
静止画ですが、くるくると動きを感じる絵になり満足しています。

今回、制作する課程において、いくつかの新しい試みに手応えを感じ、自分の枠を拡げられた気がしています。今後の作品にいかしていこうと思います。